更新:2025.08.21スマートSDSメディア編集部
2024年以降、リスクアセスメント義務の対象となる化学物質が拡大しています。
それに伴い、これまでリスクアセスメントを行なっていなかった事業場でもリスクアセスメントを行わなければなることがあるでしょう。
本記事では、化学物質のリスクアセスメントについて、義務の対象となる物質や、実施体制、詳しいやり方についても解説します。法令適合を進めるためぜひ最後までご覧ください。
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リスクアセスメントとは、職場や製品、環境におけるリスク(危険性や有害性)を特定し、そのリスクの大きさを評価したうえで、適切な対策を講じるプロセスのことです。主に労働安全衛生や化学物質管理の分野で重要視されており、事業者はリスクアセスメントを通じて事故や健康被害を未然に防ぐことが求められます。
リスクアセスメントは労働安全衛生法においては57条の3第3項に「化学物 質等による危険性または有害性の調査」として、事業者の義務として定められています。
実はリスクアセスメントの対象は化学物質だけではなく、機械設備やデータのセキュリティ対策などさまざまなものがあります。今回は化学物質のリスクアセスメントについて解説しています。
化学物質のリスクアセスメントを行う目的は、労働災害・健康災害の発生を防止し、労働者の健康を守ることにあります。ただ、これはリスクアセスメントの目的のうち一つに過ぎず、以下のような目的もあります。
また、リスクアセスメント義務があるにも関わらずリスクアセスメントを行っていなかった場合、労働安全衛生法で明確に定められた罰則等はありませんが、労働基準監督署の指導の対象となってしまう可能性もあります。
現在の「自律的な化学物質管理」ではリスクアセスメントの実施は事業者の判断に任せられるところも大きいですが、必要に応じてしっかりと実施するようにしましょう。
化学物質のリスクアセスメントは、化学物質等の持つ危険性や有害性を特定し、それに基づくリスクを見積もるとともにリスク低減措置の内容を検討するまでの一連の流れを言います。
化学物質のリスクアセスメントは危険性に対するリスクアセスメントと、有害性に対するリスクアセスメントの二つに分類されます。
両者は推奨されるリスクアセスメントの方法や、利用される指標などが異なります。詳しくは化学物質のリスクアセスメントのやり方で後述しています。
化学物質のリスクアセスメントは2016年6月1日の労働安全衛生法改正により義務化されました。
化学物質のリスクアセスメント義務の対象となるのは、いわゆる「リスクアセスメント対象物」を取り扱う場合においてです。
これはリスクアセスメント対象物を製造している場合に限った話ではなく、リスクアセスメントを取り扱っているのみの場合にも対象となります。従って、リスクアセスメントは製造業、建設業のみならず、商社や飲食店、医療・福祉の現場など様々な業種が対象になります。
では、リスクアセスメントの対象となる物質はどのように定められているのでしょうか?
これに関しては、労働安全衛生法で定められている「表示・通知義務対象物質」がそのままリスクアセスメント実施義務の対象物となります。
表示・通知値対象物質そのものの単一化学物質、または表示・通知対象物質を基準値以上(裾切値と言います)以上含んでいる混合物を扱っている場合、それに対してリスクアセスメントを行わなければなりません。
リスクアセスメント対象物については、「【2025最新】リスクアセスメント対象物について:一覧や化学物質管理との関係について解説」の記事で詳しく解説しているため併せてご利用ください。
なお、2025年4月1日以前のリスクアセスメント義務対象物質は職場のあんぜんサイトから確認できる896物質のみでしたが、、2025年4月1日に表示・通知義務対象物質が追加 され、リスクアセスメント義務対象物質も約1600物質に増加するしました。
具体的には、「リスクアセスメント対象物に該当するか確認 - ケミサポ」のサイトで確認できる約700の物質が追加されました。さらに、2026年4月にも700物質、それ以降にも定期的に追加が行われることが予定されており、今後の事業者の負担増が予想されます。
上記のリスクアセスメント義務対象物質以外の化学物質については、労働安全衛生法ではリスクアセスメント実施の努力義務が定められています。
現在の自律的な化学物質管理においては、事業者には労働災害を起こさないという結果が求められます。リスクアセスメント義務対象外の物質についても、危険有害性の認められる物質についてはしっかりとリスクアセスメントを行い、労働災害の防止に努めるようにしましょう。
リスクアセスメントの実施体制は、大前提として労働者を参画させるものでなければならないとされています。厚生労働省の定める化学物質等の危険性または有害性の調査に関する指針では、以下の図のようなリスクアセスメントの実施体制が定められています。以下、これについて解説します。
総括安全衛生管理者は、リスクアセスメントの実施の意思の決定や、全体的な実施の統括管理を行います。
基本的には事業場のトップがこれに該当し、事業の実施を統括管理するとともにリスクアセスメントの実施を統括管理します。
安全管理者または衛生管理者が選任されている場合には、該当者は総括安全衛生管理者のもとでリスクアセスメントの実施を管理します。
なお、安全管理者および衛生管理者は、事業場における労働者が常時50人以上である場合、業種に応じて選任義務が発生することが労働安全衛生法により定められています。
詳しくは厚生労働省の以下のページをご覧ください。
【安全管理者】厚生労働省:安全管理者について教えてください
【衛生管理者】厚生労働省:衛生管理者について教えてください
化学物質管理者は労働安全衛生法では「事業場における化学物質の管理に係る技術的事項を管理するもの」と定義されています。
リスクアセスメントにおいては、化学物質管理者はその業務の推進や実施状況を管理することに加え、技術的な業務を実施します。
したがって、化学物質管理者は化学物質等の適切な管理について必要な能力を有する者から選任すべきとされています。なお、2024年4月以降、リスクアセスメント対象物を扱っている事業場において化学物質管理者の専任が義務付けられました。化学物質管理者に選任される者は、厚生労働省の定める以下の講習を修了した者でなければなりません。