2024年4月に労働安全衛生法の改正がなされ、SDS交付義務の対象物質が増加しました。加えて2025年、2026年にもSDS交付義務は拡大していくことが決定しています。
それに伴いSDS周りに業務負担が急増します。具体的には、SDSの作成に限らず、更新・管理・配布・受取・使用などさまざまな課題が発生します。今後の法改正を受けて生じる課題と、その解決方法について以下の資料にまとめていますので、法適合の準備にご利用ください。
本記事では、SDSの基本的な情報や、作り方の流れをわかりやすく整理し、記載すべき情報などを簡単にわかりやすくまとめています。
SDSとは「安全データシート」の略で、Safety Date Sheet の頭文字をとったものになります。これは、化学物質を譲渡または提供する際に、その化学物質の危険性や取扱方法、保管方法などを提供相手に伝達するために交付されるものです。
SDSは労働安全衛生法などの各種法令により交付が義務付けられています。事業者にとってSDSは法令遵守のために重要であるほか、労働者の安全確保という意味でも大きな意味を持ちます。具体的には、事業者はSDSに記載された内容 をもとにリスクアセスメントを行い、事業場における危険性や有害性を特定します。
詳しい記載内容に関しては「SDSに記載すべき情報」に記載しています。
MSDS(Material Safety Data Sheet)とはSDSの日本国内での旧称です。従来から海外では国連のGHSに基づいてSDSの呼称が使用されていたため、2017年に日本国内でも国際標準化の観点からSDSの呼称が使用されるようになりました。
SDSの交付は全ての化学物質に対して義務付けられているわけではありません。SDSの交付義務はSDS3法と呼ばれる、労働安全衛生法、化学物質排出把握管理法(化管法)、毒物及び劇物取締法(毒劇法)の3つの法令によって定められています。ただし、これらの法令で義務が定められていない物質に対してもSDS交付は努力義務となっている点に注意してください。
SDS交付義務対象物質は、該当する単一化学物質を提供する際に発生するのはもちろんのこと、当該物質を成分にもつ混合物を提供する際にも義務が発生します。なお、混合物を提供する際には基本的に、SDS交付義務が発生するための濃度下限値が定められています。それぞれの法令において物質ごとに値が定められており、次のサイトで確認可能です。
2025年1月現在では、約900の物質がSDS交付義務の対象となっています。具体的な物質名に関してはそれぞれについて以下のサイトから確認できます。
安衛法に基づく対象物質 | |
化管法に基づく対象物質 | |
毒劇法に基づく対象物質 |
SDS交付義務の例外事項に関しては、各法令で微妙に内容が異なります。以下、それぞれの法律の例外事項を解説します。
なお、SDSは化学品を事業者から他の事業者へと譲渡・提供する際に交付が必要なものです、したがって一般消費者向けに製品が提供される場合は参照する法律にかかわらず交付義務の対象外となります。
こちらに関しては、「一般消費者の生活の用に供される製品」としてSDS交付義務の除外事項が定められています。一般消費者の生活の用に供される製品には以下のものが含まれます。
労働安全衛生法に基づくSDS交付義務の除外事項に関しては、別記事「一般消費者の生活の用に供される製品とは? 労働安全衛生法に基づくSDS交付義務の判断基準を具体例をもとに解説」で詳しく解説しておりますので合わせてご確認ください。
化管法に基づくSDS交付義務の例外事項は以下のような物質に適用されます。
対象となっている化学物質の含有量が基準値以下の混合物もSDS交付義務は発生しません。
毒劇法に基づくSDS交付義務の例外事項は以下のような物質に適用されます。
SDS3法の中でも、労働安全衛生法に関しては労働環境の変化やリスクの増加に対応するため近年複数回改正されており、今後も数回の改正が予定されています。
直近の改正 では、2024年4月のものが挙げられ、自律的な化学物質管理への転換を掲げてさまざまな改正が行われました。そのうちの一つとしてSDS交付義務対象物質が674物質から896物質へと拡大されました。
今後の改正予定としては、2025年4月1日および2026年4月1日に改正が予定されており、それぞれ約700ほどの物質が追加されます。結果として2026年には約2300の化学物質がSDS交付義務の対象となる予定であり、SDSに関する業務の負担が激増することが予想されます。
SDSに記載すべき項目はSDS3法によってそれぞれ定められており、法令ごとにその内容が異なります。
ただし、物質ごとに対応する法令と記載内容を把握しSDSを作成することは困難であるため、全ての法令に対応したSDSの記載方法がJIS Z7253で規定されています。JIS Z7253については後述しますが、この内容に準拠したSDSを作成すれば、労働安全衛生法、化管法、毒劇法の3法全てに対応できることになります。
労働安全衛生法ではSDSの通知項目として以下の12個の項目を定めています。
なお、「想定される用途及び当該用途における使用上の注意」に関しては2024年4月の労働安全衛生法で追加された項目となります。これらの労働安全衛生法によって定められたSDSの記載内容と、JIS Z7253によって定められている記載内容の比較についても後述していますので、併せてご利用ください。
化管法では、次の16の項目について以下の順番で日本語で記述することを定めています。
これらの化管法によって定められたSDSの記載内容と、JIS Z7253によって定められている記載内容の比較についても後述していますので、併せてご利用ください。
毒劇法ではSDSの記載内容として以下の13項目を定めています。
これらの毒劇法によって定められたSDSの記載内容と、JIS Z7253によって定められている記載内容の比較についても後述していますので、併せてご利用ください。
基本的に、JIS Z7253にあるSDSの記載内容に遵守すれば上記の3法で定められている記載項目をすべてカバーすることができます。JIS Z7253では、SDSに記載すべき内容を下記の16項目で定めています。
この項目には、製品とその提供者に関する基本的な情報を記載します。
を記載します。*がついたものは記載が必須となります。ついていないものは記載が推奨されます(以下の項目についても同様となります)。
この項目には、扱う化学品に危険有害性があればその旨について簡潔に記載します。
SDSの第2項に関しては、別記事「【SDS第2項】危険有害性の要約とは? 危険有害性情報や注意書き、Pコード・Hコードについて実際のSDSをもとに解説」で当社のSDS作成ツール「スマートSDS」で作成した実際のSDSをもとに詳しく解説しておりますので、ぜひご利用ください。
この項目には、化学品に含まれる成分および含有率を記載します。
第3項に関しては、別記事「【SDS第3項】組成及び成分情報の書き方! 記載が必須となる成分や官報公示番号との対応を実際のSDSをもとに解説」で記載内容を詳しく解説していますので、併せてご利用ください。
この項目には、化学品に対するそれぞれのばく露経由に対して、必要があればそれぞれの応急処置方法を記載します。
この項目には、火災が発生した時の対処法や、注意すべき事項を記載します。
この項目には、化学品が漏出した際における対処法や、注意すべき事項を記載します。
この項目には、化学品を取り扱う際、および保管する際に注意すべき事項を記載します。
取扱に関しては、ばく露防止などのための適切な技術的対策と、当該物質を安全にに取り扱うための注意事項、及び保護具や局所換気などの接触回避などの情報を記載します。
保管に関しては、適切な保管条件及び避けるべき保管条件を記載します。その際、混合接触させてはならない化学物質及び安全な容器包装材料に関する情報を含めます。
この項目には、労働者が事業場内で化学品による被害を受けないためのばく露防止情報と、保護措置について記載します。
この項目 には、化学品の性質について当てはまる事項を記載します。
なお、融点/凝固点,溶解度,n-オクタノール/水分配係数(log値)については、混合物の場合記載しなくても構いません。
また、各情報に関して、情報がない場合にはその旨を必ず記載するようにしてください。
この項目には、化学品の安定性、および特定の条件で発生する可能性のある有害反応について記載します。
この項目に関しても、各情報に関して、情報がない場合にはその旨を必ず記載するようにしてください。
この項目には、GHS分類に基づく化学品の有害性について記載します。以下のものについて当てはまるものがあれば必ず記載してください。
これらの危険有害性のデータが入手できない場合には、データ不足の旨を該当項目に記載します。また、それぞれのGHS分類の危険有害性区分に該当しない場合には、区分に該当しない旨を記載します。
この項目には、化学品の環境影響に関する情報について記載します。以下のものについて当てはまるものがあれば必ず記載してください。
この項目に関しても、データが入手できない場合、又は分類判定基準に至らない場合にはその旨を記載します。
この項目には、化学品を廃棄する際の注意事項について記載します。
この項目には、安全かつ環境上望ましい廃棄、又はリサイクルに関する情報を含めます。化学品そのもののみでなく、当該物質が付着している容器についても記載しましょう。
この項目には、化学品の輸送に関する注意事項について記載します。
この項目には、化学品に対して適用される法令の名称と諸情報について記載します。
この項目には、以上1〜15までの項目以外で必要と考えられる情報を記載します。
先述の通り、JIS Z7253に記載されたSDSの項目内容に準拠すれば労働安全衛生法、化管法、毒劇法全ての内容に対応することが可能です。JIS Z7253の各項目がそれぞれの法令をどのようにカバーしているのかについて次の図にまとめましたので参考にしてください。
表を見ると、JIS Z7253が各法律の要素に対応していることがわかります。
ここでは実際に新しく作成した製品に関して、SDSを作成していく手順を解説します。
新しく作成した製品については、複数の物質 からなることがほとんどであるため、混合物に該当します。混合物に関しては、その製品自体の危険性や有害性はわからないことがほとんどです。ですので、新しい製品のSDSを作成する際は、基本的にその原材料から製品の特性を類推していく形になります。
そのため、まずは原材製造者に依頼して製品の原材料のSDSを入手するように努めましょう。
次に、個別の原材料に対してGHS分類を行います。
分類方法としては、原材製造者から原材料のSDSを取得できた場合にはそこに記載された情報をもとに行います。
該当SDSを入手できなかった場合には、その物質について公開されている情報をもとにGHS分類を行います。その際はNITE-CHRIPなどの信頼できる機関が化学物質の危険有害性情報を公開しているサイトを参照してください。
各原材料に対してGHS分類が完了したら、その結果をもとに製品のGHS分類を行なってください。
GHS分類とは、化学物質を危険有害性の種類・程度により分類し、使用者にわかりやすい形で表示した国連によって定められたシステムです。
GHS分類では、化学品を物理化学的危険性、健康有害性、環境有害性の3つの観点から分析し、その結果を視認性の高い絵表示によって示します。絵表示には以下のようなものがあります。
【引用】厚生労働省:職場の安全サイト
GHS分類に関しては、別記事「【2024年最新】GHSとは? 分類方法、区分、絵表示やSDS・ラベルとの関係について簡単にわかりやすく解説」が詳しいですので合わせてご確認ください。
②で作成した製品のGHS分類をもとに、実際にSDSに必要な項目を記入していきます。
SDSは一度作成すれば終わりではありません。SDSの内容に関して法改正があった場合それを更新しなければならないほか、一部の項目に関しては定期更新の義務もあります。また、交付する側だけでなく受取側に関しても適切なSDSの使用・管理が求められます。
こうしたSDSに関連する様々な課題およびその解決策について、以下のチェックシートにまとめています。最新の法改正を取り入れた内容となっておりますので、ぜひダウンロードしてご活用ください。
一度作成したSDSは定期的に更新しなければなりません。具体的にはSDSを更新しなければならない状況として二つのものが考えられ、「人体に影響を及ぼす項目の5年ごとの確認と更新」および「SDS関連法規制の改正に対する更新」の二つです。
一つ目の「人体に影響を及ぼす項目の5年ごとの確認と更新」は、主にSDSの「危険有害性の要約」および「有害性情報」に関して 、5年に一度最新のデータを元に確認し、変更があった場合には更新が必要となるものです。
二つ目の「SDS関連法規制の改正に対する更新」に関しては、労働安全衛生法などのSDSに記載すべき内容を決定する法律が改正された際にそれに併せてSDSを更新しなければならないものです。直近のものだと2025年4月1日に表示・通知対象物質の追加が行われます。これに基づいて既存のSDSのうち、新しく義務が追加された物質を含むものについて15項の「適用法令」を更新する必要があるでしょう。
なお、SDSの更新については別記事「SDSの更新義務について:更新頻度や一括更新する方法をわかりやすく解説」も併せてご利用ください。
SDS交付義務はSDSの作成にとどまりません。作成したSDSを取引先に通知することで初めて交付義務を果たしたと言えます。この通知方法に関しては近年柔軟化が行われ、電子的な通知方法が認められることとなりました。詳しくは別記事「SDSの通知義務について:通知が必要な条件や適切な通知方法を解説!」をご覧ください。
ここまではSDSを交付する側について述べてきましたが、SDSを受け取る側にも義務や課題が生じる点にも注意が必要です。
具体的には受け取ったSDSを労働者に周知する義務、リスクアセスメントを実施する義務やその他の法令義務に対して適切に対応する必要があります。また、それに伴ってSDSのバージョン管理等様々な課題が発生します。
SDSの労働者への周知については別記事「【2025年変更】SDSの周知義務について:労働者への周知方法を労働安全衛生法に基づき解説」を、リスクアセスメントやその他法令義務に関しては「SDSに関わる業務課題チェックシート」の資料をご確認ください。
SDS交付義務の対象となる化学物質は今後も増加することが予定されており、前述の通り2026年4月までに約2300種まで拡大されるとされています。
今後はSDS作成業務の負担が増加するばかりでなく、新しく義務対象となる事業場にとっては早急に対応 すべき課題となるかもしれません。
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