更新:2025.05.18スマートSDSメディア編集部
2024年の労働安全衛生規則改正により、「保護具着用管理責任者」の選任が義務化されました。これにより、安全メガネや防じんマスクなどの保護具の“正しい使用”を管理・徹底する体制が、企業に求められることになります。
「そもそも保護具着用管理責任者とは何者なのか?」「誰を選任すべき?」「講習は必須?資格は?」——こうした疑問を持つ担当者も多いはずです。
本記事では、保護具着用管理責任者の役割から選任要件、必要な講習や資格までをわかりやすく解説。法改正に対応するために押さえておきたいポイントを、実務目線で整理します。
スマートSDSでは、こうした化学物質管理の法改正の最新の動向を踏まえ、「SDS関連業務の業務課題チェックシート」を無料で配布しています。ぜひダウンロードして業務にご活用ください。
保護具着用管理責任者とは、労働災害を防ぐために、作業に応じた保護具(防じんマスク、防毒マスク、安全メガネ、保護帽など)の適切な着用を管理・指導する責任者のことです。
保護具着用管理責任者は2024年4月の労働安全衛生規則の改正により、ある条件を満たす事業場に対して選任が義務付けられる形となりました。
保護具着用管理責任者 の職務は以下のように定められています。
以上から保護具着用管理責任者は、作業場の環境や作業手順などから適切な保護具を選定し、労働者への教育、保護具の機能管理など事業場における保護具の運用に関する責任者として、安全衛生管理体制の重要な一角を担う役割であると言えるでしょう。
保護具着用管理責任者は、事業場において化学物質管理者のもとで保護具に関する業務を管理します。化学物質管理者は事業場におけるリスクアセスメンとの技術的事項も管理するもののことです。詳細は別記事「【2024年選任義務化】化学物質管理者とは? 資格要件や職務、義務化対象についてわかりやすく解説」をご覧ください。
なお、保護具着用管理責任者は事業者全体としての選任ではなく、事業場ごとに選任義務が発生する点に注意してください。
上図は事業場における化学物質のリスクアセスメントのイメージ図になりますが、保護具着用管理責任者は化学物質管理者の元で保護具の選定、管理を行います。
リスクアセスメントとは、作業における危険性や有害性を特定し、それによる労働災害や健康障害のリスクを見積もり、対策の優先度やリスク低減措置を決定するまでの一連の手順を言います。リスクアセスメントは労働安全衛生法では、第57条の3第3項に「危険性または有害性の調査」と規定されているものです。
リスクアセスメントは「リスクアセスメント対象物」という物質群に対しては実施義務が定められており、それ以外の物質に対しても努力義務が定められています。
リスクアセスメント対象物は、労働安全衛生法においてSDS交付およびラベル作成が義務付けられている物質のことであり、2025年4月現在、約1600の物質が対象となっています。具体的な物質名に関しては「表示・通知対象物質の一覧をダウンロード」からEXCELデータがダウンロード可能です。
また、リスクアセスメント対象物の範囲は今後の法改正により拡大していくことが決定しています。2026年4月には約2300の化学物質がその対象となるとされているため、現在化学物質管理者の選任やSDSの作成の義務対象でない事業場もいずれ対象となりうる点に注意が必要です。
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労働安全衛生法とは、労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境の形成を促進するための法律です。この法律は労働環境の変化や新たなリスクに対応するため、近年複数回の改正が行われています。
2024年4月の改正は、2022年より推進されていた「自律的な化学物質管理」に関する規定を定めたものです。通知・表示対象物の追加や、SDSの更新・通知に関することなどさまざまなことが定められましたが、そのうちの一つに「保護具着用管理責任者の選任義務化」がありました。
なお、2024年の改正内容については、別記事「【2024年】労働安全衛生法の改正まとめ:化学物質管理体系の変更について一覧で解説!」でまとめていますので、ご覧ください。
今回の改正の背景には化学物質による労働災害をめぐる状況があります。
産業界で使用される化学物質の種類は年々増加しており、現在利用されているだけでもその数は7万以上あると言われています。一方で、従来から日本では一つ一つの物質に対して危険性・有害性の確認や、それに対する取り扱い方法、保護具の着用などを各個法律で規定する「個別規制型」の化学物質管理が取られており、未評価の化学物質も多く存在しました。この状況を逆手にとって、一部の工場などでは、使用していた化学物質が特定化学物質等に指定されるとその物質の使用をやめ、規制の緩い似たような物質を十分な安全性の確認をせずに使うといったことが行われていました。
こうして規制外の物質に対する労働者のばく露リスクが増加し、化学物質による労働災害の約8割が、規制対象外の物質によるものとなっていたのです。
このような状況に陥っていた原因の一つとしては、中小企業内のノウハウ不足があります。平成29年のデータでは化学物質のリスクアセスメントの実施率は50%強であり、実施しない理由としては「人材がいない」「方法がわからない」といったものが多かったのです。
こうした背景から、職場内での化学物質による健康障害や環境への影響が懸念されるケースが増え、法的にリスクアセスメントの実施と管理者の選任が求められるようになりました。
こうした状況を踏まえて、2022年には「自律的な化学物質管理」を掲げた労働安全衛生法の改正内容が公布されました。
自律的な化学物質管理では、従来の個別規制型の化学物質管理と異なり、事業者には主体的に職場で使用する化学物質の危険性や有害性を評価し、その結果に基づいて適切なばく露防止措置をとることが求められます。したがって、事業者には法令の遵守に限らず労働者の安全という結果が求められる形になります。
今回の改正は、自律的な化学物質管理という指針のもと施行される内容となります。
保護具着用管理責任者の選任義務以外には、具体的に次の表のような改正が行われました。それぞれの改正内容の詳細については別記事「【2024年】労働安全衛生法の改正まとめ:化学物質管理体系の変更について一覧で解説!」を参照してください。
労働安全衛生法は今後も改正予定が定められています。具体的には、2025年には表示・通知対象物質の追加や、労働者への通知に関する改正がなされ、2026年までには先述のとおりリスクアセスメント等の規制対象物質を約4倍にまで拡大する改正がなされます。
2026年の改正内容については、別記事「【2026年】労働安全衛生法改正まとめ:化学物質に関する法規制の最新動向をいち早く解説!」でまとめています。
化学物質を扱う事業者は、こうした化学物質に関する法改正を迅速に把 握し、適切な対応をとっていく必要があります。スマートSDSは労働安全衛生法や化審法などの化学物質に関する法改正が行われた際にメールアラートでそれを通知しているほか、改正内容に対応したSDSの一括更新機能などを搭載しています。今後の法改正にお悩みの事業者様はぜひお試しください。
事業場において保護具を使用する際には、保護具着用管理責任者を選任しなければならないと定められています。
なお、保護具を着用する状況としては以下のような状況が考えられます。
なお、皮膚等障害化学物質は、皮膚若しくは眼に障害を与えるおそれ又は皮膚から吸収され、若しくは皮膚に侵入して、健康障害を生ずるおそれがあることが明らかな化学物質と定めら れており、皮膚刺激性有害物質と皮膚吸収性有害物質の二つから構成されます。
皮膚刺激性有害物質 | 国が公表するGHS分類の結果及び譲渡提供者より提供されたSDS等に記載された有害性情報のうち「皮膚腐食性・刺激性」、「眼に対する重篤な損傷性・眼刺激性」及び「呼吸器感作性又は皮膚感作性」のいずれかで区分1に分類されている化学物質。ただし、特定化学物質障害予防規則(昭和47年労働省令第39号。以下「特化則」という。)等の特別規則において、皮膚又は眼の障害を防止するために不浸透性の保護衣等の使用が義務付けられているものを除く。 |
皮膚吸収性有害物質 | 皮膚から吸収され、若しくは皮膚に侵入して、健康障害を生ずるおそれがあることが明らかな化学物質。ただし、特化則等の特別規則において、皮膚または眼の障害等を防止するために不浸透性の保護衣等の使用が義務付けられているものを除く。 |
皮膚等障害化学物質に分類される物質は現状1064物質あり、厚生労働省のサイトで一覧がダウンロードできます 。
労働安全衛生法では「事業者は、有害業務を行う屋内作業場その他の作業場で、政令で定めるものについて、厚生労働省令で定めるところにより、必要な作業環境測定を行い、及びその結果を記録しておかなければならない」とされています。
事業者は、労働安全衛生法施行令で定められる以下のような作業場について、「作業環境測定基準」に従って作業環境測定を行わなければなりません。その結果得られた空気中の化学物質の濃度について、管理濃度との比較を行い、当該作業場を第一管理区分、第二管理区分、第三管理区分のいずれかに分類を行います。
なお、管理濃度については別記事「管理濃度とは? 一覧や許容濃度との違いについてわかりやすく解説」で解説していますので、併せてご確認ください。
その後、分類された区分に基づき、作業環境の改善措置を行います。もし作 業環境が第三管理区分に分類された場合、その後の状況に応じて保護具着用管理責任者の選任が義務となる場合があります。
作業環境測定の結果、作業場が第3管理区分に分類された場合、事業者は直ちに該当場所の作業環境の改善の可否と、その改善方法について外部の作業環境管理専門家の意見を聞かなければなりません。
作業環境管理専門家に作業環境の改善が困難と判断された場合に保護具着用管理責任者の選任が義務となります。具体的には以下の義務が発生します。
また、これらの措置を講じてから作業場の測定結果が改善されるまでの間、6ヶ月に1回の濃度測定とおよびそれに基づく保護具の選定、1年に1度の保護具の適切な使用の確認が義務付けられ ます。
作業環境管理専門家は事業場について客観的な評価を下すため外部の専門家が望ましいとされますが、要件は以下のようになっています。
なお、作業環境管理専門家の名簿は以下のサイトで公開されています。必要な場合にご利用ください。
作業環境管理専門家に改善可能と判断された場合、改善のために必要な措置を行い、措置を講じたのちにもう一度作業環境測定を行います。その結果評価が第三管理区分から改善しなかった場合にも保護具着用管理責任者の選任が義務となるほか、上記と同様の義務が生じます。
保護具着用管理責任者を選任する義務が生じた場合、事業者は対応を行わなければなりません。保護具着用管理責任者という資格は存在しませんが、事業者は保護具に関する知識及び経験を有すると認められるもののうちから保護具着用管理者を選任しなければならないとされており、具体的には以下のような人物が該当します。
なお、化学物質管理専門家は、化学物質管理者とは異なります。化学物質管理専門家は次のいずれかに該当するものとされています。
また、上記のいずれかに該当する人物を作業場で選任することが困難な場合は、以下の保護具の管理に関する教育を受講したものから選任することとされています。
学科試験
実技試験
【参考】安全衛生マネジメント協会:保護具着用管理責任者教育講習界のご案内
なお、「保護具に関する知識及び経験を有する者」に該当するものについても、上記の講習を受講することが推奨されています。講習には中災防などが開催しているものがあります。
化学物質を扱う事業者は、保護具着用管理責任者を選任すべき事由が発生した場合、14日以内に保護具着用管理責任者を選任しなければなりません。
保護具着用管理責任者を選任しなければいけなかったことが発覚した場合には直ちに選任を行うようにしてください。
事業者は保護具着用管理責任者の選任後以下の2点を行わなければいけないと定められています。
2024年4月の労働安全衛生法の改正により、該当事業場には保護具着用管理責任者の設置が義務付けられました。ほとんどの事業場は、今いる従業員の中から保護具着用管理責任者を選任し、講習の受講などをサポートする形で教育をしていくことになるでしょう。
リスクアセスメント対象物及びSDS交付義務対象物質は今後も拡大していくことが予想されており、事業者にとっては負担が急増することが予想されます。
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