労働安全衛生法

表示対象物質と通知対象物質とは? 安衛法に基づく違いや一覧と、SDSとの関係について解説

更新:2025.02.23
スマートSDSメディア編集部
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労働安全衛生法(安衛法)では表示対象物質と通知対象物質が定められています。これらは化学物質を取り扱う上で重要なSDSやラベルに関する義務と深く関わっていますが、曖昧なままにしている方も多いのではないでしょうか?

本記事では表示対象物質と義務対象物質及びそれらの違いとそれぞれに課せられる義務内容について詳しく解説します。

表示対象物質

表示対象物質とは、その化学物質、またはその化学物質を成分に持つ混合物を含む容器に対して、ラベルによる名称等の表示が義務付けられている物質のことです。

ラベルに記載すべき内容は国連のGHSに準拠したものが安衛法で定められています。詳しい記載方法はJIS Z7253にまとめられており、そちらに準拠すれば以下の項目を全て満たしたものが作成できます。

  • 製品または化学品の名称
  • 注意喚起語
  • 人体に影響を及ぼす作用
  • 安定性及び反応性
  • 貯蔵または取り扱い上の注意
  • GHSに基づく絵表示
  • 譲渡・提供者の氏名、住所及び電話番号

なお、GHSに関しては別記事「【2024年最新】GHSとは? 分類方法、区分、絵表示やSDS・ラベルとの関係について簡単にわかりやすく解説」で解説しておりますので、合わせてご利用ください。

通知対象物質

通知対象物質とは、その化学物質、またはその化学物質を成分に持つ混合物を他の事業者に譲渡・提供する際にSDSの交付が義務付けられている物質のことです。

SDSに記載すべき内容は安衛法のほか、化管法および毒劇法の3法によって定められています。詳しい記載方法はJIS Z7253にまとめられており、そちらに準拠すれば3法の内容を全て満たしたSDSを作成できます。

なお、SDSに関しては「SDS(安全データシート)とは? 作成方法や項目、交付義務、MSDSとの違いについても簡単にわかりやすく解説!」の記事で作成方法を解説しています。

一覧の確認方法

表示対象物質及び通知対象物質の具体的な物質明に関しては、厚生労働省の職場のあんぜんサイトから一覧のエクセルファイルがダウンロードできます。

2025年1月現在では、2024年4月1日の労働安全衛生法改正で定められた896物質が対象となっています。

ただし、安衛法は2025年4月1日、および2026年4月1日と、今後2年間にわたって改正が予定されており、その2回の改正を経て義務対象物質は約2300種類ほどにまで増加すると見込まれています。現在対象の物質を扱っていない事業者も今後の改正で対象となる可能性は十分にあります。今後の法改正を受けて生じるSDS関連の諸問題とその解決策について、以下の資料にまとめましたので、早めの対策のためにぜひご利用ください。

お役立ち資料

なお、今後の法改正で義務対象に追加される予定の物質は、労働安全総合研究所のサイト(ケミサポ)で一覧が確認できます。

表示対象物と通知対象物の違い

表示対象物質と通知対象物質は、各々に該当する物質の種類自体には違いはありません。つまり、現状だと労働安全衛生法で定められている896の物質全てが表示義務対象物質であり、通知義務対象物質であるということになります。

したがって単体の化学物質を扱う際には両者の間に違いはありません。しかし、混合物を扱う際には両者で対象となる基準が異なります。

表示対象物質と通知対象物質は該当する物質を成分に含む混合物に対してもラベル表示義務やSDS交付義務が生じますが、その物質の混合物中の割合によっては対象とならない場合があります。これは化学物質一つ一つに対して定められている基準値であり、裾切り値と呼ばれます。

参考:裾切り値について

「すそきりち」と読みます。先述の通り該当する各化学物質に定められた義務対象となるための混合物中の濃度の下限のことです。

以下は職場の安全サイトからダウンロードした表示・通知義務対象物質一覧のエクセールデータの一部です。

裾切り値 表

物質名に対して次の列にCAS番号が対応しています。その次の列にパーセント表示で記載されているのが表示義務の裾切り値、その次の列が通知義務の裾切り値になります。

例えば、画像の一番上の行に記載されている「アクリル酸」は表示義務の裾切り値および通知義務の裾切り値ともに1%ですが、次の行の「アクリル酸エチル」に関しては表示義務の裾切り値は1%であるのに対し、通知義務の裾切り値は0.1%になっています。

したがって、アクリル酸エチルを1%以上の濃度で含む化学品はその容器にラベル表示をする義務と提供時にSDS交付をする義務が共に発生し、0.1%以上1%未満の場合はSDS交付のみが義務として発生することになります。

裾切値に関しては別記事「裾切値とは? 読み方やSDS、リスクアセスメントとの関係をわかりやすく解説」も参考にしてください。

参考:リスクアセスメント対象物について

労働安全衛生法では、表示対象物質、通知対象物質の他にリスクアセスメント対象物というものが定められています。これは対象となる化学物質、または対象となる化学物質を裾切り値以上含む混合物を取り扱っている事業者に対して、当該化学品のリスクアセスメントが義務づけられる物質のことです。

リスクアセスメント対象物も、表示対象物質及び通知対象物質と対象となる物質自体は同じです。つまり、同様の896物質が対象となります。

ただし、リスクアセスメント対象物の裾切り値は表示対象物質の裾切り値と通知対象物質の裾切り値のうち、低い方が適応されます。つまり、ラベル表示義務、またはsds交付義務が課される混合物は全てリスクアセスメント実施義務の対象ともなります。

したがって、上記の「アクリル酸エチル」の例だと、表示義務の裾切り値が1%、通知義務の裾切り値が0.1%なので当該物質を0.1%以上含む化学品に関してリスクアセスメントの実施が義務付けられることになります。

リスクアセスメントに関しては厚生労働省の職場の安全サイトで、化学物質のリスクアセスメントの方法が詳しく解説されているので参考にしてください。

また、2024年4月1日の安衛法の改正により、リススメント対象物を扱っているすべての事業場は化学物質管理者を選任しなければならないと定められました。事業者全体としてではなく、事業場ごとの義務となっていることに注意してください。化学物質管理者については別記事「【2024年選任義務化】化学物質管理者とは? 資格要件や職務、義務化対象についてわかりやすく解説」で詳しく扱っています。

自社で扱う製品が通知対象だった場合の対応

SDS交付義務対象の物質を自社で扱っていることが判明した場合、法令適合のためすぐに対応を行うべきです。

労働安全衛生法の改正などにより対象物質は拡大しています。今後もすでに対象物質の追加が予定されているため、遺漏ないよう定期的に確認をするようにしましょう。

ただ、SDSの作成業務は化学や法律に関する専門知識が必要な手間のかかる業務であることも事実です。社内に十分な知識やリソースがないことも考えられるでしょう。

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