労働安全衛生法

自律的な化学物質管理とは? 個別規制型との違いを最新の労働安全衛生法に基づいて解説

更新:2025.02.06
スマートSDSメディア編集部
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2024年の労働安全衛生法改正では化学物質管理の方針が「個別規制型」のものから「自律的な管理」へと転換されました。同時にそのためのさまざまな規制の変更が行われただけでなく、2025年4月1日にもその転換の影響を受けた改正が控えています。

こうした状況下「自律的な化学物質管理」について法適合と労働者の安全確保のため事業者はしっかりと理解しておく必要があります。

本記事では「自律的な化学物質管理」について、最新の労働安全衛生法および今後の改正も踏まえて解説していきます。

個別規制型の化学物質管理

1972年に労働安全衛生法が制定されて以降、日本の化学物質管理は50年以上の間「個別規制型」で行われてきました。

個別規制型とはつまり個々の物質に対して危険性・有害性の確認や、それに対する取り扱い方法、保護具の着用などを各個規定していくことです。

その個々の規定は労働安全衛生法においては以下の図のように定められており、石綿等管理使用が困難な物質を製造・使用等の禁止として8物質、その下の123の物質に対して特別規則(特化則、有機則等)で個別具体的な措置義務を定める、といったものでした。

個別規制型の化学物質管理

【引用】厚生労働省:化学物質管理者テキスト

また、2024年4月1日以前の情報ですが、特別規則で定められる123物質を含む674の物質がSDS交付、ラベル作成、リスクアセスメント実施の義務対象として位置付けられていました。

これらで定められていない物質に対しては一般的な措置義務及びラベル表示、SDS交付、リスクアセスメントの努力義務が定められているのみとなっていたのです。

自律的な化学物質管理

自律的な化学物質管理とは、事業者にように求めたもので、主に個別の規制対象となっていない化学物質への対策強化を目的としています。

自律的な化学物質管理においては、事業者には労働者の安全という結果が求められる形になります。

厚生労働省は2019年ごろからこちらの自律的な化学物質管理について検討を開始し、2022年に一連の法改正が交付された形になります。法改正では自律的な化学物質管理にむけて様々な制度が整備されます。

自律的な化学物質管理

【引用】厚生労働省:化学物質管理者テキスト

転換の背景

化学物質の増加と労働災害

産業界で使用される化学物質の種類は年々増え続けていました。

現在利用されているだけでもその数は7万以上あると言われており、上記の労働安全衛生法の規制が全く間に合っていなかったことがわかります。

事実、現状化学物質による労働災害の約8割が、規制対象外の物質によるものです。

自律的な化学物質管理への転換の理由の一つには、こうした状況を鑑みて国は化学物質を法令で個別に管理することを諦めたというものがあります。

国際的な化学物質管理の潮流

欧米においては、日本より早くこの転換の動きがありました。

1972年、イギリスでローベンスレポートと呼ばれる報告書が議会に提出されました。これは労働安全衛生における法令に依拠することへの弊害、つまり事業者は法令さえ遵守していれば労働災害が発生したとしても責任を逃れることのできた状況を指摘したものでした。

これを受けてイギリス政府は1974年に「職場における保険安全法」を制定します。ここでは法律は原則のみとし、事業者が安全衛生に「合理的に実行可能な範囲において」取り組むべきことを定めました。これによって事業者は労働災害が起きた際に十分な安全衛生対策を講じていることが証明できないと罰則が適応されるようになったのです。

ここから自律的な対応への潮流が生まれていくことになりました。

労働安全衛生法の改正

この化学物質管理全体の方針転換に併せて労働安全衛生法の内容も大きく変更されました。この変更は数回の改正に分けて行われており、今後2025年4月1日および2026年にもこのテーマに関与した改正が行われる予定となっています。

なお、当サイトでは2024年、2025年の改正に関して詳しく解説しています。「【2024年】労働安全衛生法の改正まとめ:化学物質管理体系の変更について一覧で解説!」「【2025年4月1日】労働安全衛生法の改正まとめ:義務対象物質の追加や労働者以外の保護措置について解説」をご覧ください。

通知・表示義務対象物質の増加

通知・表示義務対象物質とはSDS交付義務対象物質、ラベル作成義務対象物質、リスクアセスメント対象物のことを指します。

これらの3つに該当する物質は、基本的に全て同じです。しかし、裾切り値と呼ばれる対象となるための当該物質の混合物中の濃度下限が異なる場合があります。こちらについて詳しくは別記事「表示対象物質と通知対象物質とは? 安衛法に基づく違いや一覧と、SDSとの関係について解説」をご覧ください。

2024年4月1日の労働安全衛生法改正以前は通知・表示義務対象物質は674物質でしたが、改正以降896物質となっています。具体的な物質名については厚生労働省の職場の安全サイトで確認できます。

こちらに関しては、今後の改正によって大きく変わってくる部分になります。2025年4月1日には約700の物質が追加されることが予定されています。また、2026年にも再度700程度の物質が追加されることが予定されており、計2300ほどの物質が義務対象となる見込みです。2026年以降も政府のGHS分類結果に応じて適宜対象物は追加されていきます。

今後の法改正に伴うSDS関連の課題と解決策を

お役立ち資料

次の資料にまとめておりますので、併せてご利用ください。

2026年までに追加される物質の一覧はこちらのサイト(ケミサポ)から確認できます。法改正対応の準備は早めに行うようにしましょう。

リスクアセスメント

化学物質管理におけるリスクアセスメントとは、化学物質の労働者に対する危険性や有害性を特定し、そのリスクを軽減するための措置を決定するまでの一連の手順のことを言います。化学物質のリスクアセスメントに関する詳しい情報は厚生労働省「化学物質のリスクアセスメント実施支援」をご覧ください。

化学物質のリスクアセスメントを実施するために、厚生労働省やその他機関は様々なツールを公開しています。代表的なものでは厚生労働省のコントロール・バンディングやCREATE-SIMPLEなどがありますが、これらのツールを使用するかや、どのような方法でリスクアセスメントを行うかについては事業者の選択によるものとなりました。

これは、リスクアセスメントおよびそれに基づくリスク低減措置が事業者の判断および責任に基づいて行われるということを意味します。

また、事業者はリスクアセスメントの実施状況の共有および調査等に労働者を参画させなければいけません。

化学物質管理者

2024年4月1日の法改正では、リスクアセスメント対象物を扱っている事業場に対して化学物質管理者の選任が義務付けられました。

化学物質管理者は事業場の化学物質の技術的事項の管理、つまりラベル・SDSの作成や、リスクアセスメントの実施等が適切に行われるようにする業務を負います。

この改正の背景には、リスクアセスメントが適切に行われていない原因として中小企業の知識不足があったことがあげられます。化学物質管理者は化学物質管理に特化した専門家として厚生労働省が定める専門的講習を受けていなければなりません。

化学物質管理者に関しては別記事「【2024年選任義務化】化学物質管理者とは? 資格要件や職務、義務化対象についてわかりやすく解説

また、ばく露防止のために保護具の着用を選択する場合には、化学物質管理者のもとに保護具着用管理責任者を選任し、保護具の選択や管理を行う必要があります。

健康診断

事業者は化学物質を取り扱う労働者に対して年一回以上の健康診断の実施と、その結果の記録を行わなければなりません。

特別規則

2024年4月1日以降は、これまで特別規則で規定されていた123の物質に関して、ある一定の条件を満たせば、保護具と健康診断に関する事項を除いて特別規定の対象外の物質と同じように扱って構いません。つまり、他の通知・表示対象物質およびリスクアセスメント対象物と同じように管理すればいいということになります。

特別規則規定

また、健康診断に関しては特別規則の規定物は特殊健康診断を実施する必要がありますが、これを半年に一回のところ1年に一回に緩和させることが可能です。

これは、通知・表示対象物質の範囲を拡大し、その範囲で事業者に自主的に適切な化学物質管理を実施させるという意味で、「自律的な化学物質管理」に最も関連した改正といえます。

自律的な化学物質管理

まとめ

自律的な化学物質管理では、事業者の責任のもと自主的に適切な化学物質管理を行う必要があります。そういった意味では法令に依拠していればよかった「個別管理型」の化学物質管理と比べて事業者の負担は増加していると言えるでしょう。

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