労働安全衛生法

【2025年4月1日】労働安全衛生法の改正まとめ:義務対象物質の追加や労働者以外の保護措置について解説

更新:2025.03.08
スマートSDSメディア編集部
【2025年4月1日】労働安全衛生法の改正まとめ:義務対象物質の追加や労働者以外の保護措置について解説の記事本文サムネイル

2025年4月1日に労働安全衛生法が改正されます。今回の改正内容はSDSの交付に関するものや現場でのリスクアセスメントに関するものなどさまざまで、化学物質を扱う事業者にとっては対応が急務となることでしょう。

本記事では、2025年4月1日に施行される労働安全衛生法の改正内容を一足早くお伝えいたします。早めの法適合のためぜひ最後までご覧ください。

なお、こうした化学物質管理の法改正の最新の動向を踏まえ、スマートSDS Journalでは、改正を受けて生じる課題と、その解決方法について次の資料にチェックシートでまとめています。早めの方適合のために是非ご利用ください。

労働安全衛生法の改正について

労働安全衛生法とは、労働者の安全と健康の確保を目的として1972年に制定された法律です。これは労働者に対してではなく労働者を雇用する事業者に対して定められた法律で、事業者が労働者の安全を守るために行うべきことを定めています。

労働安全衛生法は労働現場の最新状況に適合するため数回改正されています。最近では、2024年の4月1日にも改正が行われており、化学物質管理者の選任義務等が定められました。

2024年の改正で追加された内容については、別記事「【2024年】労働安全衛生法の改正まとめ:化学物質管理体系の変更について一覧で解説!」で網羅的に解説していますので、ぜひご覧ください。

そして、今後2025年4月1日、および2026年4月1日にも労働安全衛生法の改正が予定されています。

今回は直近の改正である2025年4月1日のものを取り扱います。

2025年4月1日の改正内容

2025年4月1日に行われる労働安全衛生法の改正内容は主に次の3つになります。

  • 表示・通知対象物質の追加
  • 保護対象範囲の拡大
  • 請負人への周知義務

このうち一つ目の「表示・通知対象物質の追加」に関しては自社化学製品を提供・譲渡する際の危険性の伝達に関する改正であるのに対し、二つ目の「保護対象範囲の拡大」と三つ目の「請負人への周知義務」に関しては現場の従業員の安全確保に関する改正になります。ここからそれぞれについて詳しく解説します。

表示・通知対象物質の追加

次回の改正では、労働安全衛生法で定められる義務の対象となる物質の範囲が拡大されることが決定しています。

表示・通知対象物質とは

表示対象物質とは労働安全衛生法においてラベルによる名称等の表示が義務付けられている化学物質のことです。また、通知対象物質とは同じく労働安全衛生法によって当該物質の譲渡・提供時にSDSの交付が義務付けられている物質のことです。

表示対象物質および通知対象物質は、対象となる物質自体は同じものですが、それぞれ対象となるための混合物中の当該物質の濃度(以下、裾切り値)が異なります。

また、これらに該当する物質は同時にリスクアセスメントの対象でもあります

したがって、現在SDS交付義務の対象外である事業場も、今後義務対象に追加される物質を扱っている場合SDS交付とラベル表示が義務付けられる可能性がある上、リスクアセスメントの実施と化学物質管理者の選任も義務付けられる可能性があります。

表示対象物質および通知対象物質については、別記事「表示対象物質と通知対象物質とは? 安衛法に基づく違いや一覧と、SDSとの関係について解説」で詳しく解説していますので併せてご利用ください。

改正の背景

今回の改正の背景には化学物質による労働災害をめぐる状況があります。

産業界で使用される化学物質の種類は年々増加しており、現在利用されているだけでもその数は7万以上あると言われています。一方で、2025年4月1日以前の労働安全衛生法で定められている表示・通知対象物質は厚生労働省のサイト職場のあんぜんサイトから確認できる896種のみです。この状況を逆手にとって、一部の工場などでは、使用していた化学物質が規制物質に指定されるとその物質の使用をやめ、規制の緩い似たような物質を十分な安全性の確認をせずに使うといったことが行われていました。

こうして規制外の物質に対する労働者のばく露リスクが増加し、化学物質による労働災害の約8割が、規制対象外の物質によるものとなっていたのです。

このような状況に対して厚生労働省は毎年50-100の化学物質のGHS分類等を行い危険性を特定してきました。今回の改正は政府によるGHS分類の結果を踏まえたものです。

改正内容

詳細な改正内容としては、現在の厚生労働省のサイトから確認できる現在の896の表示・通知対象物質に加えて、2025年4月1日以降は約700の物質が新しく表示・通知対象物質となります。

今回追加される物質は、2021年3月31日までに政府がGHS分類を行なっていた物質のうち、有害性が区分1と区分されたものが対象となっています。

なお、これまで義務対象物質は労働安全衛生法令別表第9に追記する形で定められていましたが、2025年4月1日以降は厚生労働省令という形で規定されることになりました。また、改正後の義務対象物質の一覧については労働安全衛生法令別表第2に列挙されることとなります。

さらに、現状表示・通知対象物質である物質に関しても、一部の物質の裾切り値が変更されます。

具体的な追加される物質名や、変更される裾切り値については、労働安全衛生総合研究所(ケミサポ)のサイトから一覧表がダウンロードできます。

余談ですが、表示・通知対象物質は2026年4月1日にも追加されることが決定しています。そちらが追加された場合、対象物質は約2300種となります。

保護対象範囲の拡大

2025年4月1日以降は、危険箇所等における作業の際の退避や立ち入り禁止等の措置について、その対象範囲が労働者以外の人にも拡大されました。

改正の背景

この改正の背景には建設アスベスト訴訟があります。建設アスベスト訴訟は建設業務等に従事していた元労働者等やその遺族が、石綿による健康被害の損害賠償を国に求めた訴訟で、2021年5月17日に最高裁判決において国敗訴が言い渡されました。

この判決のポイントは、労働安全衛生法第22条の「健康障害を防止するための措置」が労働者のみに限定されないと解釈された点です。

改正の内容

現状、危険箇所等で作業を行う場合には、自社の労働者に対してのみ健康障害を防止するための措置が義務化されています。

今回の改正では、この措置の対象範囲が「作業場で何らかの作業に従事するすべての者」に拡大されました。

具体的には、同じ作業現場にいる労働者以外の以下のような人も契約関係を問わず対象となります。

  • 一人親方
  • 他社の労働者
  • 資材搬入業者
  • 警備員

また、この対象となるのは次のような措置です。

  • 立ち入り禁止措置
  • 作業禁止措置
  • 喫煙・火気禁止措置
  • 退避措置

作業を重曹請負等により複数の事業者が共同で行なっている場合には、これらの掲示は共同で行う形で問題ありません。

請負人への周知義務

保護対象範囲の拡大と同時に、危険箇所等で一人親方等の請負人に作業の一部を請け負わせる場合には、保護具の必要性等を周知する義務が生じます。

この改正も先述の建設アスベスト訴訟が背景にあります。

従来は労働者に対してのみ周知義務がありましたが、今回の改正では一人親方や下請け業者等の請負人に対しても周知義務が発生することとなりました。

また、請負人に対する周知義務が発生するのは危険箇所等での作業を行わせる場合のみですが、それ以外の場合であっても

  • 作業に応じた適切な保護具等を労働者に使用させることが義務付けられている業務を請け負わせるとき
  • 特定の作業手順や作業方法によって作業を行わせることが義務付けられている業務を請け負わせるとき

に関しては請負人に対して「保護具等の使用が必要である旨」や「特定の作業手順や手法」について周知することが推奨されています。

重層請負の場合

周知義務は措置義務とは異なり、重層請負の場合には従業員に対して共同で行う形は認められません。

個々の事業者が契約相手に対して周知を行います。したがって二次下請け事業者に対しては確実に周知しなければなりませんが、三次下請け事業者に対しての周知義務は二次下請け事業者が負うことになります。

こちらに関しては、以下の厚生労働省作成の図をご覧ください。

厚生労働省による重層請負関係のイメージ図

【引用】厚生労働省:2025年4月から事業者が行う退避や立入禁止等の措置について

黒い矢印で表示されているものが従来の周知措置義務になります。2025年4月1日以降は赤い矢印で表示されているものも義務対象となります。

周知の方法

下請け事業者や一人親方等に保護具措置等を周知する際には、以下のいずれかの方法が認められています。

  • 作業場の見やすい場所に常時掲示するか備え付ける
  • 書面を労働者に交付する(請負契約時に書面で示すことも含む)
  • 電子媒体で記録し、作業場に常時確認可能な機器(パソコンなど)を設置する
  • 口頭で伝える(内容が簡潔な場合のみ)

基本的にSDSを労働者へ周知する際と同じ方法が認められていますが、内容が簡潔な場合に限って口頭での周知が認められています。

なお、SDSの周知については別記事「【2025年変更】SDSの周知義務について:労働者への周知方法を労働安全衛生法に基づき解説」をご覧ください。

安衛法改正を受けて事業者が取るべき対応

作業場の安全確保

今回の安衛法法改正では、今まで保護義務の対象外だった人にも保護対象が拡大しました。事業者はこれを受けて、既存の労働者に対して実施していた安全対策が今回新しく保護対象となった人々に対しても有効であるか確認すべきでしょう。

また、これは周知についても同様です。現在のやり方が新しい規制に適合できているかを確認し、適合していない場合には適切な対応を取ることが必要です。

加えて、新しい安全措置や周知方法を実施した場合にはその内容の記録と、記録の保管をしておくことが望ましいでしょう。これは労働災害が実際に発生した場合などの証拠にもなります。

化学物質の管理強化

表示・通知対象物質の追加に対してはSDS、ラベル、リスクアセスメント関連の業務が急増するだけでなく、SDSの更新等の至急対応すべき課題が発生します。これに関しては、義務対象物質の追加を受けて自社にどのような課題が発生するのかを事前に把握しておくことが大切です。

弊社では、200社以上へのヒアリングを通じて作成した、労働安全衛生法を受けて生じる課題をまとめたチェックシートと、その解決策を記載した資料を配布しています。将来的に自社に生じてくるであろう課題の把握と、その解決のためにぜひご利用ください。

SDSに関わる業務課題チェックシート お役立ち資料CTA

労働安全衛生法改正まとめ

2025年4月1日の労働安全衛生法改正内容を改めてまとめると、

  • 表示・通知対象物質の追加
  • 保護対象範囲の拡大
  • 請負人への周知義務

でした。

このうち事業者にとって最も大きな負担となるのは、やはり「表示・通知対象物質の追加」でしょう。この変化によって今までSDSの作成が義務付けられていなかった物質のSDS作成が義務化されるだけでなく、すでにあるSDSの内容を更新しなければならない場合もあります。

具体的には、新しく規制対象となった物質を含む化学品のSDSの15項「適応法令」等に、今回追加される規制内容を追記しなければなりません。こうした作業はSDSが適切に管理されていないと、該当するSDSをリストアップするだけでも大変骨の折れる作業となります。

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