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蒸気圧について~SDS第9項の読み方と実務での判断ポイント!~

更新:2026.03.13スマートSDSメディア編集部

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SDSを作成・管理する際、第9項に記載される物性値は、さまざまな判断の基礎となります。その中でも蒸気圧は、作業環境リスクや火災リスクの理解に直結する重要な指標です。

しかし実務では「蒸気圧はどう読めばいいのか」「Not availableのときはどう判断するのか」といった疑問が出ることも少なくありません。

本記事では、蒸気圧の基本概念からSDSでの読み方、実務での判断ポイントまでを整理します。

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蒸気圧とは

蒸気圧とは、物質(液体または固体)とその蒸気が平衡状態にあるときに蒸気が示す圧力を指します。なお、SDS第9項で記載される蒸気圧は主に液体状態のものを指します。
簡単にいうと、その物質がどれくらい蒸発しやすいかを示す指標です。

液体は常に蒸発していますが、密閉空間では蒸発と凝縮がつり合った状態(気液平衡)が生じます。この気液平衡では、蒸気の圧力が一定値に保たれます。

この圧力が蒸気圧であり、温度が上昇すると蒸発が増えるため、蒸気圧も高くなります。

蒸気圧が高い物質では、以下のようなリスクが高まります。

蒸気圧が高い物質の主なリスク

  • 蒸気が作業空間に広がりやすい
  • 吸入ばく露のリスクが高くなる
  • 可燃性蒸気による火災・爆発リスク
  • 密閉容器では内圧上昇の可能性

例えばアセトンやエタノールのような溶剤は蒸気圧が比較的高く、容器を開けるなど外気にさらされる条件では、蒸気が発生しやすい物質です

蒸気圧を見ることで、次のような判断ができます。

蒸気圧から判断できること

  • 揮発性の高さ
  • 作業環境中の蒸気ばく露リスク
  • 火災・爆発の可能性
  • 保管方法(密閉・換気など)

SDS第9項における蒸気圧の見方

SDSでは蒸気圧は第9項「物理的及び化学的性質」に記載されます。
一般的には次のような形式です。

例)蒸気圧:2.4 kPa(25℃)

これは25℃の平衡条件において、その物質の蒸気が示す圧力が2.4 kPaであることを意味します。液体が十分に存在する密閉空間では、この圧力に達すると上記の圧力が一定に保たれます。

以下は実務上の参考目安です(特定の規制基準ではなく、一般的な物性評価の考え方に基づく区分です)。

蒸気圧から揮発性を判断する目安(25℃付近)

蒸気圧

揮発性の目安

実務上の解釈

10 kPa以上

非常に揮発しやすい

容器を開けるだけで蒸気が多く発生

1~10 kPa

揮発しやすい

作業環境で蒸気ばく露が起こりやすい

0.1~1 kPa

中程度

条件によって蒸気が発生

0.01~0.1 kPa

低い

常温では蒸発は比較的少ない

0.01 kPa未満

非常に低い

常温では蒸気はほとんど出ない

※上記はいずれも密閉・平衡状態を前提とした目安値です。実際の作業環境(換気等)においても相対的なリスク評価の目安として活用できます。

この際に重要なのは、蒸気圧を温度条件とセットで解釈することです。
蒸気圧は温度によって大きく変化するため、数値だけでは意味を判断できません。

よくある疑問①「温度が書いていない蒸気圧はどう解釈する?」

多くの物性データは25℃付近で測定されていることが多いですが、SDSに温度が明記されていない場合は断定できません。
そのため実務では

  • 物性データベース
  • メーカーへの問い合わせ

などのデータソース確認が望ましいです。

よくある疑問②「蒸気圧が「Not available」の場合」

「Not available」と記載されている場合、次のような可能性があります。

  • 測定データが存在しない/試験が実施されていない
  • 蒸気圧が極めて低く測定困難
  • 固体など液体以外の状態で通常の蒸気圧測定の対象外

この場合は蒸気圧だけで判断せず、以下のような物性値から、揮発性や蒸気ばく露の可能性を推定することができます。

参考になる物性値

  • 沸点
  • 蒸発速度
  • 物質の状態(固体・液体)

よくある疑問③「蒸気圧が極端に小さい場合」

蒸気圧が非常に小さい場合、通常温度では蒸気の発生は比較的少ないと考えられます。
しかし以下の条件ではばく露が発生する可能性があります。

  • 加熱作業
  • スプレー・ミスト作業
  • 粉体の飛散

そのため、蒸気圧だけで安全と判断することはできません。

蒸気圧とSDSの他項目の関連性

蒸気圧は第9項の物性値ですが、実際には複数のSDS項目と関係しています。

SDS項目

関係

第2項

GHS分類に基づく危険有害性の種類(引火性・急性毒性等)の確認

第8項

換気・呼吸保護具などのばく露対策

第9項

沸点・蒸発速度など他の物性値との関係

第11項

蒸気ばく露による吸入毒性の危険性理解

複数のSDS項目と蒸気圧を組み合わせた読み方を下記に記します。

アセトンの場合

  • 蒸気圧:約24 kPa(20℃)
  • 引火点:−20℃ 

    蒸気が発生しやすく、可燃性蒸気による火災リスクが高い物質

引火点とは、可燃性蒸気が点火源により瞬間的に燃焼を起こすのに十分な濃度の蒸気を液面上に発生させる最低温度のことです。

トルエンの場合

  • 蒸気圧:約3.8kPa(20℃)
  • 第11項:吸入ばく露で神経影響

    蒸気ばく露による健康影響に注意が必要

つまりSDS実務では「蒸気圧+危険有害性+毒性情報」を組み合わせて、リスクを理解することが重要になります。

蒸気圧と他の物性値の関係

蒸気圧は単独で見るよりも、他の物性値と組み合わせて読むことで危険性をより正確に理解できます
SDS実務では、特に次の物性値と一緒に確認することが重要です。

物性値

読み取れること

引火点(定義は前節参照)

火災・爆発リスク

沸点

揮発性の高さ

蒸発速度

作業環境中への蒸気拡散の速さ・吸入ばく露リスク

〇蒸気圧 × 引火点(火災リスク)

蒸気圧は「蒸気がどれくらい発生するか」を示し、引火点は「蒸気が燃える条件となる温度」を示します。
そのため、この2つを組み合わせて読むことで火災リスクを理解できます。

例)アセトン

  • 蒸気圧:約24 kPa(20℃)
  • 引火点:−20℃

この場合、蒸気圧が高いため常温でも蒸気が大量に発生します。さらに引火点が低いため、発生した蒸気は常温でも可燃性になります。

つまり蒸気が発生しやすく、火災・爆発リスクが高い物質と判断できます。

〇蒸気圧 × 沸点(揮発性の理解)

沸点は、液体の蒸気圧が外圧(通常は大気圧)と等しくなる温度を指します。
一般的に沸点が低い物質ほど蒸発しやすく、蒸気圧も高い傾向があります。

例)エタノール

  • 沸点:78℃
  • 蒸気圧:約6 kPa

この場合、沸点が比較的低いため常温でも蒸発しやすく、蒸気が発生しやすい物質といえます。

そのため下記対策が重要になります。

  • 換気の確保
  • 密閉操作
  • 引火源管理

〇蒸気圧 × 蒸発速度(作業環境リスク)

蒸発速度は「蒸発の速さ」を示す指標です。SDSでは多くの場合、酢酸n-ブチル(塗料用途で広く使われる一般的な溶剤)の蒸発速度を1として、その相対値で表記されます(値が大きいほど蒸発が速い)。

例)ジエチルエーテル

  • 蒸気圧:約58kPa(20℃)
  • 蒸発速度:酢酸n-ブチルを1とした場合、約36(非常に速い)

このような物質では、容器を開けた瞬間から蒸気が急速に拡散します。そのため

  • 作業空間への蒸気拡散
  • 吸入ばく露
  • 引火リスク

が発生しやすくなります。

このように、SDS実務では蒸気圧だけを見るのではなく、引火点・沸点・蒸発速度などと組み合わせて物質の挙動を理解することが重要です。

まとめ

蒸気圧は、物質の揮発性や蒸気ばく露リスクを理解するための重要な物性値です。

蒸気圧を読む際に参考となるポイントは次の通りです。

  • 温度条件とセットで解釈する
  • 他の物性値(沸点・蒸発速度など)と合わせて理解する
  • SDS第2項・第8項・第9項・第11項と関連付けて判断する

SDS作成者や管理者は、蒸気圧の数値だけを見るのではなく実際の作業条件や、ばく露可能性などを踏まえて総合的に判断することが重要です。

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執筆者 スマートSDSメディア編集部
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