リスクアセスメント

個人ばく露測定とは?ガイドラインや測定方法などの基礎から、作業環境測定や個人サンプリング法との違いまで解説!

更新:2026.03.19スマートSDSメディア編集部

個人ばく露測定とは?ガイドラインや測定方法などの基礎から、作業環境測定や個人サンプリング法との違いまで解説!の記事本文サムネイル

化学物質による健康リスクを評価することは、リスクアセスメントを進めるうえで欠かせないポイントです。なかでも個人ばく露測定は、作業環境の状態だけでは把握しきれない、作業者個人のばく露量を評価し、健康影響リスクを推定するための手法として位置づけられています。

本記事では、個人ばく露測定の目的や測定方法を整理するとともに、関連するガイドラインや講習制度、そして作業環境測定や個人サンプリング法との違いについても解説します。

個人ばく露測定を正しく理解し活用することは、リスクアセスメントの精度を高め、作業者の健康障害を未然に防ぐことにもつながります。

2026/03/25 ウェビナーバナー

個人ばく露測定とは

個人ばく露測定は、労働者の健康障害を防止することを目的としています。作業中に労働者がどの程度有害物質にばく露しているかを把握するために実施される、リスクアセスメントにおけるばく露評価手法の一つです。

具体的には、有害物質を取り扱う作業者に装着したサンプラーによって、作業中の呼吸域に存在する空気を捕集します。その後、捕集した試料について対象となる有害物質の分析を行い、得られた濃度を濃度基準値などと比較することで、労働者の健康リスクを評価します。例えばトルエンを使用する塗装作業では、作業者にサンプラーを装着し、作業中の呼吸域でトルエン濃度を測定します。

個人ばく露測定の特徴は、作業者が実際にばく露している有害物質の量を直接評価できる点にあります。また、作業者の移動や作業内容の変化といった作業の多様性にも対応しやすく、実際の作業実態を反映した測定が行えるという利点もあります。さらに、特定の作業場に限定されず、さまざまな作業環境において実施できる点も強みです。

なお、令和8年(2026年)10月1日施行予定の改正により、法定の「作業環境測定」として個人ばく露測定を実施する場合には、必要な講習を受講した作業環境測定士等の有資格者が作業環境測定基準に従って実施することが義務付けられる予定です。

呼吸域とは

両耳を結ぶ線の中点を中心として、顔の前方に広がる半径30cmの半球状の空間を指します。作業者が吸い込む空気が存在する領域です。

ガイドライン

日本産業衛生学会 産業衛生技術部会「化学物質の個人ばく露測定のガイドラインの概要」に基づく、ばく露の評価と管理を進める総合的なプロセスを紹介します。事前調査からフォローアップまで、以下の9つのステップに分けられます。

  1. 作業場の事前調査
  2. 測定計画立案
  3. 測定
  4. 分析
  5. 測定値の評価
  6. 管理区分の判定
  7. 対策の策定
  8. 報告
  9. フォローアップ

本章では、ステップ3(測定)からステップ7(対策の策定)を中心に解説します。ステップ1・2の事前調査・計画立案、およびステップ8・9の報告・フォローアップについては別途、「化学物質の個人ばく露測定のガイドラインの概要」を参照ください。

まず、個人ばく露測定を実施します。作業の記録や観察も行い、非日常的な作業や異常現象がないかを確認します(ステップ3:測定)。採取した試料については、物質ごとに定められた方法で分析を行います(ステップ4:分析)。そこで得られた測定値をばく露限界値と比較し(ステップ5:測定値の評価)、管理区分を判定します(ステップ6:管理区分の判定)。その管理区分に応じて、作業者の健康リスクを低減するための措置が必要になります(ステップ7:対策の策定)。

労働衛生管理の基本原則として、ばく露防止対策の優先順位は次の通りです。まずは作業環境管理により有害物質の発生を抑制するか作業環境中の濃度を低減し、次に作業管理によって作業方法や作業時間の制御を行います。これらに加え、健康管理や周知・教育も同時に実施されます。個人用保護具は最後の手段として位置づけられており、根本的なリスク低減には環境と作業の管理が優先されます。

※特別な事情により呼吸用保護具を装着して作業する場合には、次の点に留意する必要があります。保護具の防護性能の限界、装着の不適切さ、密着性の低下などにより、必ずしも完全に保護されるわけではないことを認識し、管理策の一部として慎重に運用しましょう。

ばく露限界値とは

労働者が1日8時間、週40時間程度、肉体的に激しくない労働強度で化学物質にばく露される場合に、当該化学物質の平均ばく露濃度がこの数値以下であれば、「ほとんどすべての労働者に健康上の有害影響が認められない」と考えられる濃度と定義されています。

ばく露に関する情報は、SDS(安全データシート)第8項に記載があります。詳しくは、SDSの第8項【ばく露防止及び保護措置】についてをご参照ください。

管理区分とは

管理区分は、複数の測定値の統計的処理(幾何平均および幾何標準偏差を用いた統計的推定)とばく露限界値との比較をもとに判定されます。以下のように、第1管理区分、第2管理区分、第3管理区分と区分されます。数字が大きいほど(第3管理区分が最も高い区分)ばく露レベルが高く、優先的な改善対策が求められます。

化学物質の個人ばく露測定のガイドラインより

【引用】日本産業衛生学会:化学物質の個人ばく露測定のガイドラインより

個人ばく露測定の方法

装着場所

個人ばく露測定では、作業者が吸い込む空気中の化学物質の濃度を把握するため、試料採取機器を労働者の呼吸域に装着して空気を採取します。

採取対象

試料空気の採取は、使用する化学物質の種類・作業内容・作業時間など、ばく露条件が類似すると判断される作業単位ごとに実施します。対象となる労働者は作業環境に適した人数(原則として2人以上)とし、それぞれに試料採取機器を装着して測定を行います。ただし、同一の労働者に対して、間隔をあけた2日以上の作業日で測定を行う場合には、必ずしも複数の作業者に装着する必要はありません。

また、試料空気の採取時間は、労働者が対象化学物質を取り扱う作業(有機溶剤等作業を含む)に従事する全時間とされており、通常は1日(8時間)の作業時間すべてを対象とします。ばく露状況を正確に評価するため、採取時間を短縮することは認められていません。

採取方法

試料の採取方法は、対象となる物質によって異なります。有機溶剤や特定化学物質については、固体捕集方法(活性炭などの吸着剤に有害物質を吸着させて採取する方法)、直接捕集方法(捕集袋などに空気をそのまま採取する方法)など、作業環境測定基準に定められた方法によって採取します。鉛の場合はろ過捕集方法および質量分析方法、粉じんの場合は分粒装置を用いたろ過捕集方法などが用いられます。

分析方法

採取した試料は、物質ごとに定められた分析方法により分析します。代表的な分析方法としては、ガスクロマトグラフ分析法(有機溶剤などの気化しやすい有機化合物を分離・定量する代表的な方法)、吸光光度法(物質が特定波長の光を吸収する性質を利用して濃度を測定する方法)、原子吸光分析法(鉛などの金属元素の濃度測定に用いられる方法)などがあります。

このように、適切な採取方法と分析方法に基づいて測定を行うことで、作業者が実際にどの程度化学物質にばく露しているのかを科学的に評価することが可能となります。

個人ばく露測定は、第1種作業環境測定士作業環境測定機関個人ばく露測定講習の受講者など、個人ばく露測定に関する専門的な知識と実務経験を持つ者が測定を担当することが求められます。

試料採取機器

個人ばく露測定では、作業者の呼吸域に小型のサンプラーを装着し、作業中に吸入する空気中の有害物質濃度を測定します。サンプリング方法は大きく分けて、パッシブサンプリング法とアクティブサンプリング法の2種類があります。

パッシブサンプリング法は、サンプラー単体で空気中の物質を捕集する方法です。ポンプなどの電力機器を使用しないため、装置が小型で作業者の負担が比較的少ないという特徴があります。

一方、アクティブサンプリング法は、サンプラーとポンプをチューブで接続し、携帯型ポンプによって空気を強制的に吸引して捕集する方法です。作業者の呼吸域に粉じん用や有機ガス用などのサンプラーを装着し、ポンプで一定量の空気を吸引することで、有害物質の濃度を算出します。

なお、携帯型ポンプには大きさや性能に違いがあるため、作業時の姿勢や作業内容、必要な稼働時間などを考慮し、作業者の負担にならない機器を選定することが重要です。

化学物質の個人ばく露測定のガイドラインより

【引用】日本産業衛生学会:化学物質の個人ばく露測定のガイドラインより

個人ばく露測定と作業環境測定の違い

作業環境測定

作業環境測定とは、作業環境の実態を把握するために、作業場の空気環境などについてデザイン(測定計画の立案)、サンプリング(試料採取)、分析・解析を行う一連の測定を指します。その目的は、適正な作業環境を確保し、職場における労働者の健康を保持することにあります。

作業環境中には、ガス・蒸気・粉じんなどの有害物質のほか、騒音、放射線、高熱などの有害なエネルギーが存在する場合があります。これらの因子は、長期間ばく露することで働く人々の健康に悪影響を及ぼすおそれがあります。

そのため、これらの有害因子による職業性疾病を予防するためには、作業環境中から有害因子を除去するか、一定の管理レベル以下に抑えることが重要です。作業環境測定は、そのために作業環境の状態を客観的に把握し、適切な管理や改善につなげるための基本的な手段となっています。

つまり、個人ばく露測定は作業者個人に対するばく露量を測定する方法であるのに対し、作業環境測定は作業場の環境全体における有害物質の濃度を測定する方法です。

個人ばく露測定と個人サンプリング法の違い

個人サンプリング法とは

個人サンプリング法は、労働者の身体に試料採取機器を装着して行う作業環境測定の方法の一つであり、個人ばく露測定には該当しないとされています。

2021年4月から導入され、作業者の呼吸域付近に小型の測定機器を装着して測定を行う方法で、従来のA測定・B測定に対してC測定・D測定と呼ばれます。

この方法は、有機溶剤の塗装作業や印刷機の清掃作業など、発散源が固定されず作業者が移動しながら作業する場合に適しており、定点測定では把握しにくい作業環境の評価に有効です。

個人サンプリング法による作業環境測定は、C測定とD測定の2種類で構成されます。
C測定は単位作業場所の平均的なばく露状態を把握するための測定で、原則として5人以上の労働者を対象に行います。労働者が5人未満の場合は、作業時間を分割して5サンプル以上を採取する方法が可能です。

測定時間は基本的に作業時間全体を対象としますが、同一作業が2時間以上続く場合は2時間に短縮できます。
一方、D測定は最もばく露が高くなると考えられる時間帯の連続15分間を測定します。

個人サンプリング法による作業環境測定及びその結果の評価に関するガイドラインより

【引用】厚生労働省:個人サンプリング法による作業環境測定及びその結果の評価に関するガイドラインより

つまり、個人ばく露測定と個人サンプリング法は、パッシブサンプラーや携帯式ポンプなどの個人サンプラーを使用し、労働者の呼吸域で測定を行う点で共通しています。

一方で、個人サンプリング法による作業環境測定は「作業場全体のリスク評価」を目的としているのに対し、個人ばく露測定は「作業者個人のリスク評価」を目的としている点が大きな違いです。また、測定時間や対象人数といった測定方法にも異なる点があるので注意しましょう。

まとめ

個人ばく露測定は、作業者個人のばく露実態を科学的に評価し、健康障害予防に直結する手法です。作業者の呼吸域で測定を行うことで、作業環境中の有害物質が人体に与える影響を、より実態に即した形で評価できます。例えば、有機溶剤を使用する塗装作業では、作業者ごとのばく露量が個人ばく露測定によって把握でき、換気設備の改善や作業手順の見直しといった具体的な対策に結びつけることができます。

また、個人ばく露測定の結果は、リスクアセスメントにおける評価の基礎情報としても有効です。作業環境測定や個人ばく露測定の結果を踏まえ、作業環境管理や作業方法の改善、必要に応じた保護具の使用などを実施することで、労働者の健康障害を未然に防ぐことができます。


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執筆者 スマートSDSメディア編集部
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