更新:2026.07.16スマートSDSメディア編集部

化学物質による健康障害を防止するためには、リスクアセスメントを適切に実施し、その結果を現場の安全対策につなげることが欠かせません。
一方で、SDSの管理、リスク評価、作業者への周知など、化学物質管理を継続的に運用していくためには、さまざまな対応が必要になります。
2026年7月1日にスマートSDSが開催したセミナーでは、SDS管理やCREATE-SIMPLEの活用方法をはじめ、リスクアセスメントを現場で機能させるための具体的な取り組みについて解説しました。
本記事では、当日の内容を振り返りながら、化学物質管理をより実践的に進めるためのポイントを紹介します。


2024年4月、厚生労働省による新たな化学物質規制の導入に伴い、「化学物質の自律的管理」がスタートしました。
これまでは、国が対象となる有害な物質をピンポイントで指定し、企業はその指定物質に対して定められた法的義務を遵守するという管理方法が主流でした。
しかし、そのピンポイントに指定された物質以外の物質での化学物質の事故が多いことから、従来のように国が対象物質を一律に指定するだけでは、十分なリスク管理が難しいという課題がありました。
そこで、指定された物質に限らず企業が化学物質の危険性や有害性を把握し、企業内あるいは企業間で危険性の情報を共有しながら、自律的に事故の防止に取り組む「自律的管理」という考え方が導入されました。
そのためには、まず化学物質に関する正確な情報を把握し、関係者間で共有できる仕組みを整えることが欠かせません。
その情報共有の代表となる手段が、SDS(安全デ ータシート)です。
近年では、SDS表示・通知対象物質が増加しており、企業が管理すべき化学物質の範囲も広がっています。
SDS交付対象物質は、リスクアセスメントの対象となる物質でもあるため、対象物質の増加に伴い、実施すべきリスクアセスメントの範囲も拡大しています。
リスクアセスメントは、評価結果をもとに、ばく露量がどの程度低減されたのか、基準値を下回っているのかを確認し、その結果を記録・保存・周知する必要があります。加えて、リスクアセスメントの結果に基づいた保護具の選定・着用や、労働者へのヒアリングなど、継続的な対応も求められます。
さらに、前章で説明したように、国が指定した対象物質だけを管理するのではなく、企業自らが取り扱う化学物質の危険性や有害性を把握し、継続的に管理していくことが求められています。
そのため、現在SDS交付対象となっている物質への対応だけでなく、今後追加される可能性のある化学物質や、自社で取り扱う物質全体の動向にも目を向ける必要があります。
世の中には、SDS交付対象物質として指定されている物質の数をはるかに上回る、多種多様な化学物質が存在するといわれています。
今後、研究が進むことで新たな危険性や有害性が明らかになる物質もあり、その結 果、危険有害性の区分が付与されることで、SDS交付対象物質に追加される可能性があります。
つまり、化学物質管理は「ここ数年を乗り切ればよい」というものではなく、来年以降も対象物質が増加していくことを前提に考える必要があります。
今後、管理対象となる化学物質が現在の2倍、3倍へと増えていくことも十分に起こり得る未来です。
個別の対応だけではなく、継続的に対応できる管理体制を構築しておきましょう。
ここまで、自律的管理の考え方や、今後求められる管理体制について解説しました。
本章では、その実現に向けて、継続的な管理体制を構築するために必要となる具体的な取り組みや目指すべき姿について解説します。

こちらは、縦軸を安全管理にかかる工数、横軸をSDS対象物質数として、管理負担の変化を示したグラフです。
左のグラフのように、SDS対象物質が増えるたびに、安全管理にかかる工数も同じように増えていく。
このような管理体制では、今後さらに対象物質が増加した際に対応しきれなくなる可能性があります。
よい管理体制とは、対象物質の増加に伴って業務量が比例して増えるのではなく、管理にかかる負担の増加を抑えられる仕組みを構築することです。
理想は、SDS対象物質が増加しても、管理工数がほとんど変わらない状態です。
一方で、適切な管理体制を構築したとしても、事故の発生を完全になくし、絶対に安全な状態というものは存在しません。
そのため、万が一事故が発生した場合でも、被害の拡大を防ぎ、影響を最小限に抑えられる体制を整えておくことが求められます。
次に化学物質管理において目指すべき姿は、単に「事故をゼロにすること」だけではなく、リスクを把 握したうえで、事故発生時にも適切に対応できる管理体制を構築することです。
実際に、労働基準監督署の対応やISO認証における監査を受けた企業からは、「確認されるのは事故の件数ではなく、事故が起こりにくい仕組みや、発生時に適切な対応ができる体制が整っているかどうか」という声もあります。
現に、インターネット上で公開されている労働災害の報告内容を確認すると、

本来着用すべき保護具が使用されていなかった、SDSに記載された爆発や着火リスクへの対策が十分でなかったなどがありました。
適切な化学物質管理が行われていれば、事故の発生や被害の拡大を防げた可能性がある事例もあります。
労働災害は、作業者への直接的な被害だけでなく、営業停止や取引停止につながるリスク、さらには法令違反による罰則の対象となる可能性もあります。
そのため、事故を完全になくすことだけを目指すのではなく、発生リスクを少し でも低減できる仕組みを構築し、その仕組みを継続的に運用できる状態を整えておくことが求められます。
2024年4月の制度開始から2年が経過した現在、リスクアセスメントを実施するかどうかを議論する段階は、すでに終わりを迎えています。問われているのは実施の有無ではなく、その先の管理方法です。
今後、対象物質が増加していく中で、企業には変化に対応できる拡張性のある管理体制が求められています。
これからは、「どう実施するか」ではなく、「どう効率よく、継続的に管理していくか」という時代に入っています。
そこでキーワードとなるのが、「つながり」です。
リスクアセスメントは、単に実施するだけではなく、関連する情報や業務と有機的につながることで、より実効性のある管理につながります。
スマートSDSでは2026年3月に、リスクアセスメントの実施状況や運用上の課題を把握するため、100名以上の方にご参加いただいた企業向けアンケートを実施しました。

現状、8割以上の方がCREATE-SIMPLEを活用していることが分かりました。
CREATE-SIMPLEは、これまでにも複数回のバージョンアップが行われており、今後もさらなる機能向上が期待されています。
スマートSDSでは、このような度重なる改訂や、継続的に発生するリスクアセスメントの管理にも対応できるよう、CREATE-SIMPLEの活用を前提とした設計を行っています。
これらを踏まえ、リスクアセスメント業務を「SDS管理」「CREATE-SIMPLE」「現場への周知」の3つに整理しました。
では、どのような状態であれば、この3つの主なリスクアセスメント業務が「つながっている」と言えるのでしょうか。

自律的な化学物質管理を実現するためには、以下の4つのつながりが機能していることがポイントになります。
これら4つのつながりが形成されることで、企業自らが化学物質のリスクを把握し、継続的な改善に取り組む自律的な管理体制の構築につながると考えます。
まず、情報のつながりについて解説する前に、「情報のつながりが十分にできていない状態」とはどのような状態なのかを考えてみます。
例えば、SDSが紙やPDFのまま管理されており、必要な情報に誰もがすぐアクセスできる状態になっていないケースがあります。
さらに、リスクアセスメントの結果が一元管理されておらず、現場への掲示や作業者への周知状況を把握できていないといった状態も、情報が適切に活用されているとは言えません。
つまり、SDSやリスクアセスメントの結果を必要なタイミングでいつでも確認でき、情報が整理・管理されている状態が、「つながった情報」と言えます。
業務のつながりとは、リスクアセスメントの実施から対策の実施、さらにその後の改善まで、化学物質管理に関わる一連の業務が適切に連携している状態を指します。
まずは、化学物質管理における基本的な業務の流れを確認します。

①作業における危険性の把握
②SDS情報の確認をもとに危険性の評価と低減措置
③リスクの評価と対策の実施を行い、その記録を保管
④現場への周知
⑤継続的な改善
例えば、新しいSDSが発行された場合、その情報を誰が確認し、リスクアセスメントの見直しが必要かをどのように判断するのか、社内で明確なルールが定められているでしょうか。
また、化学物質管理にお いて変化が生じるのは、SDSの更新時だけではありません。仕入れ先の変更、使用する溶剤の変更、製造条件の変更など、さまざまな場面で新たなリスクが発生する可能性があります。近年では、ナフサ不足などを背景に、原材料や調達先が変更されるケースも見られます。
こうした変化を確実に管理するためには、リスクの把握から対策、周知、改善までの各工程について、「いつ」「どのように対応するのか」を明確にしておくことが大切です。
それぞれの業務が連携し、必要なタイミングで適切な対応が行われることで、継続的な化学物質管理につながります。
先ほどは、リスクアセスメントに関する業務の流れについて、「いつ」「どのように対応するのか」という観点から整理しました。
次に、「誰が対応するのか」を明確にすることで、役割や責任の所在が明らかになり、業務を円滑につなげることができます。
ここまでは業務全体の流れをもとに整理しましたが、本章ではさらに具体化し、一つひとつの作業単位で、担当者や対応内容を確認していきます。

①SDS管理(調達したSDSをデータ化し、常に最新版を管理できる状態にします)
②リスクアセスメント管理(リスクアセスメントの実施・管理に加え、改善点が見つかった場合には、その内容を反映した見直しまで行います)
③法令対応(PRTR法や消防法に関する届出などを行います)
④取引先対応(取引先からの含有物質や使用量に関する調査への対応を行います)
少なくとも、これらの業務がそれぞれ独立して行われるのではなく、必要な情報を共有しながら連携できる体制を整えることが求められます。
その基盤となるのが、適切なSDSデータ基盤です。
情報のつながりでも述べたように、適切なSDSデータ基盤とは、「最新のSDS情報を漏れなく管理し、必要な人が適切なタイミングで確認できる状態」を指します。
①のSDS管理担当者が正確なSDSデータ基盤を整備し、その情報を②③④の各担当者へ共有することで、必要な情報が適切につながり、それぞれの業務で活用できる状態になります。
